こんにちは。時短父さんです。

米国株の主要銘柄についてキャッシュフロー分析を行っているこの企画。これまでシェブロンとエクソン・モービルの比較、ペプシコとコカ・コーラの比較を行ってきました。同じ業界の企業を取り上げるのは、事業構造が似ていることがキャッシュフローの分析には必要だからです。毎年多くの投資が必要なインフラ企業と、そうでもないサービス企業では、その事業構造が違って当然です。

キャッシュフローを分析すると、損益計算書の結果(つまり売上高や純利益など)だけでは見えてこないものが見えてきます。企業を人の身体に例えるなら、キャッシュは血液です。血液を身体に回していかないといけないように、企業もキャッシュの出入り(フロー)をしっかり回し、管理していく必要があります。キャッシュがないとそもそも企業は倒れますしね。

3回目となる今回は、通信大手の2社であるAT&T(T)とベライゾン・コミュニケーションズ(VZ、以下ベライゾン)を取り上げます。通信会社はインフラとしての側面が強く、毎年多くの設備投資が必要になります。通信網を維持したり、次世代規格などの研究開発を進めたり、規模拡大のための買収を行ったりと・・・両社は米国で2強の通信会社で、高配当株としても有名ですが、キャッシュフローについてはどんな特徴があるのでしょうか?

まずはそれぞれのキャッシュフロ―の推移を見てみましょう。
営業CFは「営業活動によるキャッシュフロー」、投資支出はCapital Expenditures(事業継続に必要な設備投資)を、フリーCFは営業CFから投資支出を差し引いたものを指します。投資支出には、事業や有価証券の売却・取得は含みません

こちらはAT&Tの推移です。
T CF

AT&Tの営業CFは300億ドルから500億ドルとなっています。営業CFの毎年の伸び率は、平均で3.9%、中央値で5.7%となっています。2009年から2019年の間では、41%増加しました。

ベライゾンの推移です。

VZ CF

ベライゾンの営業CFは、毎年200億ドルから400億ドルの間となっています。ややAT&Tより少ない印象です。営業CFの伸び率は、平均で4.0%、中央値で6.0%となっています。AT&Tより数値が高いですが、2009年から2019年の間では14%の増加に留まっています。年によりバラつきがあるようです。

ではキャッシュフロー分析の具体的な指標を見ていきましょう。
①営業キャッシュフローマージン
営業CFマージンは、営業CFを売上高で割って算出します。キャッシュフローベースの営業利益みたいなものです。

営業CFマージン

パッと見て、AT&T(青線)の方が安定的かなという印象があります。実際、AT&Tの期間平均は26%、中央値は27%であるのに対して、ベライゾンの平均は23%と中央値は24%です。3%ポイントずつAT&Tの方が高くなっています。特に2016年以降は差がついています。

営業利益率ではベライゾンの方が上回っている(T=平均14%、VZ=平均19%)のですが、営業CFではAT&Tの方が効率よくキャッシュを稼いでいることになります。

②事業投資営業CF比率
事業投資営業CF比率は、投資支出を営業CFで割って算出します。企業に入ってきたキャッシュを、事業の維持・継続のためにどれだけの投資が必要かを示しています。逆を言えば、どれだけフリーCFを残せるかを表しています。

事業投資営業CF比率

こちらはまちまちと言った感じです。
AT&Tの期間平均は53%、中央値は54%で比較的安定していると言えますが、近年は減少傾向にあります。投資を抑制する方向に進んでいるのと同時に、営業CFが増加していることが要因です。AT&Tはタイムワーナーの取得を2018年に行っており、その年の投資CFは630億ドルの支出となりました。

ベライゾンの期間平均は54%、中央値は51%です。2016年~2017年が突出しているのは、営業CFが減少したからです。それを除けば安定して事業継続に振り向ける投資をしていると言えます。

いずれにしても両社は、営業CFの約半分を毎年設備投資に振り向けていることが分かります。残りの半分を事業買収に使うか、株主還元に使うかなどの余地として残してあるということです。

③1株あたりの営業キャッシュフロー
1株あたりの営業CFは、営業CFを発行済み株式数で割ったものです。発行済み株式数は、毎年の各社の年次報告書から確認しました。

1株当たり営業CF

安定度で言えば、AT&Tですね。毎年6ドル~7ドルで推移しています。期間平均は6.26ドル、中央値は6.04ドルです。期間の伸び率は16%となっています。

一方、ベライゾンの1株あたり営業CFは、AT&Tのそれを大きく上回っている時期がありました。が、急速に差が縮まり、一時はAT&Tを下回りました。2012年は28.5億株だったのに、2013年に41.4億株に増えているのも、1株あたり営業CFが減少した要因でしょう。期間平均は9.04ドル、中央値は9.37ドルです。期間の伸び率は-22%でした。

④キャッシュフローベースの配当性向
キャッシュフローベースの配当性向は、配当総額をフリーCFで割ったものです。通常の配当性向は、1株あたりの配当を、1株当たりの利益(EPS)で割ったものですが、こちらはキャッシュフローをベースに見ています。手元にキャッシュがあるなかでの配当政策をしているのかを確認できます。

CFベース配当性向

こちらはAT&Tがベライゾンに対して高い傾向にあることが分かります。期間平均と中央値ともに64%となっています。利益ベースの配当性向では、100%超えがザラにありますが、キャッシュフローベースでは、全て100%未満に収まっています。

一方でベライゾンの期間平均は60%、中央値は41%と、AT&Tよりかなり低くなっています。2016年~2017年は営業CFが落ち込んだので、配当性向も100%を超えてしまいました。


いかがでしたか?
AT&Tについては、思っていたほどに悪い数値は出てきませんでしたね。物言う株主のアクティビストから、資産売却を迫られたり、投資抑制を迫られたり、経営者の交代を迫られたりしていたので、数値は悪いものだと思っていたからです。今のところキャッシュはしっかり会社に流れ込んできているのは分かりました。しかし、ディレクTV契約数の減少など利用者の減少が続く傾向は変わっていません。それがキャッシュフローに悪影響が出ないことを願うばかりです。

ベライゾンについては、2016年~2017年の営業CFの落ち込みが、全ての指標に悪影響を及ぼしました。一時的に悪化したものの、総じて言えばAT&Tと同レベルまたはそれ以上の水準で、キャッシュを回しているようです。


高配当投資家にとっては、配当の原資となるキャッシュが会社に流れ込み続けてくれることが重要です。現代社会において、通信会社はなくてはならない存在です。ネット通販、携帯電話の普及、テレワークなどなど。キャッシュの流れ込みが急激に滞る心配はありませんが、過度な投資を抑制していくことは肝心でしょう。投資家はそうした点に注意して見ていく必要があると思います。


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